【30周年特別企画】 長岡造形大生×卒業生! 美術・工芸学科編
左から 廃材アーティスト 加治聖哉さん(21期生)、
作家 さとうゆかさん(15期生、修士18期生)、
ジュエリーデザイナー 渡邉葉月さん(17期生、修士17期生)
インタビュアー 佐川和暉
(大学院 修士課程 美術・工芸領域 2年)
撮影 佐藤千花(視覚デザイン学科3年)
大学時代の課題制作が活動のきっかけに
佐川 私は美術・工芸学科の鍛金コースで学び、今は大学院で作品制作や鍛金のワークショップなどをしています。皆さんはそれぞれ、どんなお仕事や活動をしていますか?
加治 木材などの廃材で実物大の動物をつくるアーティストをしています。廃材は工務店からいただいたものとか、楽器も木材なので、コントラバスやお琴とか、いろんな種類を使っています。こだわっているのは動物の実際のサイズでつくること。リアルなサイズ感で間近に見ることで刺激を感じてほしいです。ちなみに私は猫が好きだけどアレルギーがあるので、木材でつくって猫を感じています(笑)。
佐川 確かに加治さんの作品を見ると「実物ってこんなに大きいんだ」と驚きます。動物園ではこんなに近くで見ることもないですしね。廃材を使うようになったのはどうしてですか?
加治 大学の建築・環境デザイン学科の授業で、椅子制作の課題がありました。今は小さい模型をつくるようですが、自分たちの時は実物大だったんです。まだ1年生というのもあって、みんな材料取りが下手なんですよね。余った木材がコンテナにいっぱいになっているのを見て、単純に「もったいないな」「何か作りたいな」と思っていろいろやっていくうちに今のスタイルになりました。
佐川 そうだったんですね。さとうさんは作家として活動していますが、どんな作品をつくっていますか?
さとう 私は2つの活動があって、個人名の「さとうゆか」としてはワイヤーや木、土などを使った立体作品を制作しています。もう1つの「Kanicco Ceramics」としては陶の指人形をつくっています。
さとう 2つの活動はどちらも「観察・見る」をテーマにしています。個人名の活動は、自分が見たことのある景色をワイヤーなどの素材を使って抽象化しています。「Kanicco Ceramics」の指人形は、世界を見守る純粋な“観察者”として表現しています。
佐川 作家名の異なる2つの作品群に、つながりがあることが興味深いです。
さとう 私は「自分は自分の主観でしか物事を見られない」ということが昔からすごく気になっていて。人間は誰もが自分のイメージを反映した上で世界を見る、その「見る」という行為を取り出して作品にしています。
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渡邉 私の活動は4本の柱に分けられます。1つ目は2020年に立ち上げたジュエリーブランド「Atsuke」のデザインと制作。2つ目は伝統工芸品のプロダクト化事業のブランドディレクション。3つ目は企業や個人から制作依頼をいただくOEM。4つ目は、加治くんやゆかさんも一緒にやっている「長岡アートコレクティブ模様」の活動です。
佐川 活動の柱が4つもあるんですね。優先順位のようなものはありますか?
渡邉 優先順位はなくて、それぞれ方向性が違う感じです。ジュエリーブランドは私の楽しさの部分を担うもの、ブランドディレクションは未来を見つめるもの、というように。
「長岡アートコレクティブ模様」とは?
佐川 「長岡アートコレクティブ模様」について教えてください。
渡邉 長岡造形大学の卒業生7名のアーティストで活動しています。企画展はもちろん、アトリエがあるのでそこを拠点に活動している人もいます。アトリエは「模様」以外のアーティストさんも展示に利用してもらっていて、地域やいろいろな人との接点があるオルタナティブな活動拠点というイメージです。
加治 普段1人で活動している自分にとって、「模様」は貴重な場所。同じような環境や状況の仲間に会って、話ができるのはすごくいいですね。
さとう 1人でいると自分で完結せざるを得ないようなことも、「模様」のメンバーと会うと、話し合ったり意見を出し合ったりできます。そうすると考え方が違う人がいることの大事さ、分からなさを実感することの大事さを感じます。私にとって「模様」は「分からなさを分かる場所」という感じです。
渡邉 そうですね。同じ大学出身でアートをしているという共通点があっても、全然違う人だということを再認識する場所。拠点を持つことで、7人それぞれのスタイルを可視化しやすくなったのもよかったと思います。
やりたいことに夢中で走り続ける
佐川 学生時代のことを聞かせてください。皆さんが長岡造形大学で学んでよかったと思うのはどんなことですか?
加治 1、2年生で基礎的なことを幅広く学べたのがよかったよね。
さとう 平面も立体も一通り学べて、こういう分野もあるんだというのを知った上で、その後に領域を選択できるのがありがたかったです。
渡邉 金属ひとつとっても、私が選択した「鍛金」のほかに「鋳金」と「彫金」の領域があります。今の仕事が「何でも屋」みたいなスタイルなので、幅広く経験したことが役に立っていると思います。それと長岡造形大は基礎(現在は基礎造形演習)のサポートが手厚く、先生が踏み込んで教えてくれる印象です。大学の規模もほどよくて、視覚デザインやプロダクトデザインなど領域を超えていろんな学生と会話ができるのが楽しかったですね。
佐川 僕は葉月先輩(渡邉さん)と同じ鍛金領域ですが、先輩はどうして鍛金を選んだのですか?
渡邉 私が生まれ育った新潟の燕三条地域は、金属を叩いてつくる「鎚起銅器」という土着の伝統工芸があります。幼い頃から身近にあったということもあり、鍛金を選びました。
佐川 そうなんですね。現在、皆さんは作家やデザイナーなどフリーランスとして活躍しています。長岡造形大の卒業生は、デザイナーや工房の職人になったり、学んだことを生かして一般企業や公務員として就職したりする人もいますが、一般企業などに就職するのとは違う道を選んだきっかけのようなものはあったのでしょうか?
加治 私は一度アート系の企業に就職しましたが、その後フリーランスになりました。決まった時間に出社することや規則正しい生活が苦手なので、自分で責任を持って物事を決めたり、仕事をいただいたりする今の仕事の方が合っているなと思っています。
さとう 私も就職はしたんですが、体調を崩して退職し、少し休んだ後、真剣にアートをやろうと思い長岡造形大学の大学院に入りました。また、別の大学で陶芸をしていた妹が、自宅に電気釜を買ったんです。それで制作環境が増えて、今のスタイルになったという感じです。
渡邉 私は作家をしているというより、仕事人として生きている感覚です。大学院生の時、先輩が運営する小さな会社でアシスタントをしていました。その先輩たちがすごくかっこよくて、自分もそういう仕事をしたいと思ったことが大きくて、一般企業に勤める選択肢がなかったというのが正直なところです。
佐川 会社に入らず、作家やフリーランスとして「やっていける」と思ったタイミングはありましたか? 地に足が着いた感じというか。
加治 地に足着くどころか、足なんてあったっけ?って感じ(笑)。それぐらい走り続けてます。
渡邉 分かる。ずーっと夢中で走ってるよね。
加治 「やっていけそう」と思っても休まないというか。楽しいし、好きなことだからできることです。
佐川 長岡造形大学での経験は、皆さんの今の活動にどのようにつながっていますか?
さとう 私はすごく実用的なことで、作品展のDM、ステッカーやZINEなどのグッズを自分でつくれるという点で、大学で学んだことが生きています。
加治 私が感じるのは人との関わり。長岡造形大学は全国各地から学生が集まるので、方言、雰囲気、考え方が出身地でこんなに違うのかと思いました。どうやら私の在学中は46都道府県の出身者がいたらしいです。それぐらいバラエティ豊かで、いろんな出身地の友達からいろんなことを吸収したおかげで、今、全国を回っていても話がスムーズに通じるんですよね。葉月さんは大学の時、大きい作品をつくっていましたよね。それを見て自分も大きい作品をやりたいと思ったんですよ。
渡邉 そうだったんだ! 確かに物理的に大きい作品をつくれたのはいい経験だったな。スペースもあるし、設備も整っている。長岡造形大学にいたからできたことだと思います。
親身になってくれる先生に話そう
佐川 今後の活動の展望を教えてください。
加治 どんな形であれ、ずっとつくり続けることが人生の目標です。作品の販売やレンタルで得た収益でつくり続ける。そしていつか廃校などを利用して自分の美術館のような場所を開きたいですね。そういうビジネス的なことを考えるのも好きなので、つくり続けるためにどう回していくかを考えながら、アートをやっていきたいです。
さとう 私は自分の作品が、必要な人に届いてほしいという気持ちがずっとあります。国内だけでなく、海外に向けてもネット販売などで発信していきたいです。
渡邉 私の活動を支えてくれる人への感謝を示すようなことを続けていきたいです。一方で、この世界では平和な生活が一瞬で消えてしまう可能性もあるわけで、未来の自分や子どもたちが幸せに生きていくためにできることを考えながら、小さくてもいいから自分の仕事を頑張りたいと思います。
佐川 確かに、自由に表現や制作ができる環境は当たり前ではなく、すごくありがたいものだと思います。最後に、長岡造形大生や未来の学生にメッセージをお願いします。
加治 せっかく長岡造形大学に入ったなら、設備、機械、ソフト、全部知ってやるぞというくらいに幅広く経験し、吸収してほしいと思います。そして個人的な考えですが、フリーランスや作家を目指すとしても、一度就職して社会を知るのはいいことだと思います。就職して働くということは、極端に言えば、お金をもらいながら社会勉強ができるということ。大学で学ぶことは社会人として生きていく大前提の部分ですから、初めからフリーランスとしてやっていくのは結構大変なこともあると思います。私も1年という短期間でしたが、会社で働いたのはいい経験でした。
さとう いろんなことを吸収してほしいというのは同感です。私は自分の専攻とは関係ない授業を結構受けていて、それがちょっとした時に「あ、これはあの授業で聞いたことだ」とつながることがあって、自分の中で物事の見方が増えるのが面白いなと思いました。それと先生がとても親身になってくれるので、困ったら何でも相談するといいと思います。
渡邉 私は過去に戻って学生時代の自分に言うとしたら、「お金はないけど時間は作ろうと思えば作れるから、自分の専門以外にも、楽しいことや興味を持ったことに瞬発力を持って接していけるといいね」と伝えたいです。そうすると好きなことでつながる友達ができて、自分を支えてくれる存在になるのだと思います。
佐川 皆さんのことは先輩としてもちろん知っていましたが、制作にあたっての視点や想いを改めて知ることができて勉強になりました。僕も社会に出るまでに視野を広げていろいろなことを吸収していきたいと思います。これからも先輩たちの活動を応援させてください。お話を聞かせていただいてありがとうございました!
PROFILE
卒業生/
廃材再生師– Scrap wood artist
加治 聖哉
(美術・工芸学科 菅野靖研究室 2018年卒業)
さとうゆか/Kanicco Ceramics(instagram)
さとう ゆか
(視覚デザイン学科 ヴィジュアルアートコース 2012年卒業、
修士課程 美術・工芸領域 2017年修了、
岡谷敦魚研究室)
Atsuke Silver Jewelry(instagram)
渡邉 葉月
(美術・工芸学科 2014年卒業、
修士課程 美術・工芸領域 2016年修了、
馬場省吾研究室)
学生/
大学院 修士課程 美術・工芸領域 2年
藪内公美 研究室
佐川 和暉