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とじる
2021.09.24

文化の「これから」をデザインする

造形学部 視覚デザイン学科 金 夆洙(キム ボンス)准教授

韓国・釜山市出身の金先生は大学院の進学をきっかけに来日し、主に家紋や家印など日本のしるし文化を研究しています。

今回は金先生の生い立ちから教員になるまでの歩みを中心に伺いました。大学の授業のこと、高校生へのメッセージもお届けします。

絵が好きな少年時代

子どものころはどんなことが好きでしたか。

幼稚園に入る前から絵を描くのが好きでした。母親が買ってくれた用紙に鉛筆やクレヨンでいろいろなものを毎日描いていたんです。目の前にあるものを描くというよりは、漫画のキャラクターのようなものを自分で創作したり、この世で見たこともないものを想像して描いたりすることが好きでしたね。

絵巻物のように一つの絵の中にストーリー性がある絵を描いて友達に見せると「すごい!また見せてね」と喜んでくれるのが嬉しくて。当時は漫画家になりたいと思っていました。中学に入学すると韓国の古代史に興味を持ち始めて考古学者になりたいと考えるようになりました。今思うと、日本のしるし・紋章の文化を研究する原点は子ども時代にあったのかもしれませんね。

湧き始めるデザインへの興味

高校、大学時代のことを教えてください。

高校時代に「グラフィックデザイン」の存在を知り、ポスターなどの印刷物をデザインしたり、ロゴマークをデザインしたりすることに興味を持ち始めました。大学でデザインの専門教育を受けて、将来はデザイナーとしての道を歩むのも良いなと思うようになったんです。ただ、学費のこともあり、以前から興味があった考古学専攻も考えましたが、母親のアドバイスもあってデザイン専攻を目指しました。

ただ、簡単ではないんですね。韓国ではデザインの専攻科がある大学に合格するためには美術系の予備校に通うことが当たり前。私も高校2年生から通い始め、毎日夜9時まで徹底的にデッサンや色彩の勉強を行いました。苦しかったですがその成果もあり、本学と交流協定を結んでいる東西大学(釜山市)の視覚情報デザイン学科に合格しました。

在学中はプロダクトデザインや建築等幅広い分野を学びましたが、中でも力を入れたのがCI(コーポレートアイデンティティ)。これはロゴマークやコーポレートカラーなどを通して、統一された企業イメージを伝え、存在価値を高めていく企業戦略の一つですが、学びを深めるにつれ、シンボルマークやCIに携わるデザイナーになりたいという夢を抱くようになりました。

車のラッピングデザイン。大学時代の作品で、1999年「第2回 3M DESIGN CONTEST」で最優秀賞(1位)を受賞しました。

 

異国の地に飛び込む決断

日本を訪れたきっかけは何ですか。

2000年、大学3年生の時に東西大学の短期プログラムで本学を訪れる機会がありました。日本と韓国の文化比較ということで、私のグループは「食文化」をテーマに本学の学生と議論しました。日本語は全く話せなかったので身振り手振りで意見交換していたことが懐かしいです。

この経験は私の人生のターニングポイントでした。「日本の大学で勉強したい」と思うきっかけを与えてくれたのが長岡造形大学なんですね。日本語を猛勉強し、2003年に本学大学院に入学しました。修士課程での修了研究テーマは「新・長岡市のCI(city identity)の提案」。長岡の偉人である河井継之助や小林虎三郎など長岡の歴史も詳しく調べてデザインに活かしました。その時学んだ知識は今でも役に立っていますよ。

2005年1月、卒業・修了研究展で修了研究の制作物を展示した様子。

 

家紋、家印との出合い 

現在の研究の契機は「図書館で見つけた本」だと伺いました。

大学の図書館に行ったら、偶然「家紋」についての本を見つけたんですね。家紋とは一般的に「上流社会に属する者の家系のしるし」として広く知られています。その存在と種類の多さ、日本の各家庭に家紋があることには驚きました。韓国や中国、台湾といった東アジアには家紋のような文化はありません。博士課程に進んで家紋の研究をしたいと思い、千葉大学大学院の博士課程に進学しました。

「家印」と出合ったのは、博士1年の時です。家印は商家をはじめ、山村・漁村などにおいて広く用いられてきたものですが、「北総の小江戸」と呼ばれる千葉県香取市佐原をフィールドワークした際に見つけたんです。家印の文献はほとんどなく、「これを徹底的に調べたい!」と直感的に思いました。対象を、醸造のまち長岡市摂田屋や、村上市塩谷地域、小俣集落にも広げ、研究に没頭していきました。在学中には長谷川酒造(長岡市摂田屋)の醸造蔵の妻壁にあった蔵印の要素を生かして、シンボルマークデザインを手掛けました。良い思い出です。その後、2014年度に長岡造形大学の教員として着任しました。

長谷川酒造のシンボルデザイン。家に古くからある伝統文化が今日において大切な資源になることを強く実感した事例です。

 

文化の「これから」をデザインする

大学の授業について教えてください。

さまざまな授業を受け持つ中で、1年生の必修授業「視覚デザイン概論」の中で、しるし文化を取り上げます。そこで、自分の家の家紋と家印と屋号を調べる課題を出したところ、皆さんが当然知っていると思っていた家紋ですら、「知らない」「調べたことがない」という学生がほとんどで、驚きました。実は、しるし文化は生活様式の変化とともに急速に消えつつあるんですね。だからこそ、歴史や文化を知る、学ぶだけではなく、デザインの視点で新しい考え方を提案する、つまり「文化」のこれからをデザインすることがとても大切です。そういった点を学生に伝えています。この課題、家族とのコミュニケーションを図る目的もあるんですよ。

特長的な授業を挙げるとすれば「地域協創演習」。地域社会と連携し、新たな価値を生み出すプロジェクトを展開しています。私も学生と一緒に長岡野菜を広くアピールするためのプロジェクトを企画し、2014年度から5年間実施する中でフリーペーパー等を制作しました。本学は県外出身の学生が大多数です。自分の地元ではない地域の方々と触れ合い、地域の歴史や文化に触れることはとても大事なことですし、これは意義深い授業だと言えます。「まず自分が住んでいる土地に興味を持つこと」が大切です。

2015年12月、取材活動として学生と一緒に中之島のだるまれんこんを収穫したときのワンショット。作業の大変さを身にしみて感じました。右の写真は学生と一緒に作ったフリーペーパー「長岡野菜BOOK」です。

高校生へのメッセージ

受験を考える高校生たちにメッセージをお願いします。

新しいことをやってみたい、新しいものを作ってみたいという気持ちを大事にしてください。「デザインが好き」で終わるのではなく、「デザインを作る」ということを楽しむことを意識してみてください。また、いろいろな角度から物事の本質をとらえることも大事です。首都圏の大学にもデザインを学ぶ大学はありますが、本学は落ち着いた環境の中で、自然と触れ合いながら創造性を培うことができます。皆さんと一緒に学べる日を楽しみにしています。

PROFILE

造形学部 視覚デザイン学科 准教授
金 夆洙(キム ボンス)

取材・文:小川 史貴(文化・広報課)                
撮影:坂部 菜々美(視覚デザイン学科3年)

取材後記

趣味は紋帳(紋所の見本を集めた本)の収集と鑑賞。休日はタブレットとゲーム機で遊んだり、YouTubeの動画を見たりして息抜きしているとのことです。本学のビオトープに生息するモリアオガエルが好きで、以下の写真は金先生が撮影したお気に入りの一枚。とてもかわいいですね。「コロナ禍が落ち着いたら、ゼミ生を連れて韓国旅行に行きたいですね。私が隅々までアテンドします」と笑顔で話していました。

本学のビオトープで出会ったモリアオガエル(2013年6月撮影)。2021年6月に開催した「視覚デザイン学科教員展」でも展示。新潟県の準絶滅危惧種で指定されているモリアオガエルは本学の自然環境を象徴する存在です。

参考記事

しるしについては以下金先生のインタビュー記事もご覧ください。
file-144 「市章」三都物語~新発田・長岡・新潟~(前編) https://n-story.jp/topic/144/page1.php
file-144 「市章」三都物語~新発田・長岡・新潟~(後編) https://n-story.jp/topic/144/page2.php