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Photo Credit_ 「燕三条 工場の祭典」実行委員会 ©Tsubame-Sanjo Factory Festival Committee

Photo Credit_ 「燕三条 工場の祭典」実行委員会 ©Tsubame-Sanjo Factory Festival Committee

2023.04.04 卒業生

卒業生にインタビュー!クリエイティブ・ユニット「SPREAD」に聞くデザイン論【後編】

※前編はこちら

見るべきものに光をあてる「体験のデザイン」

SPREADがグランプリを受賞した「Red Dot Design Award」についてお聞かせいただけますか?

山田 ドイツのデザイン賞で、世界中から1万点を超える応募があります。私たちは2021年と2022年の2年連続でグランプリを受賞しました。一生に一度グランプリをとれるだけですごい賞。本当に光栄です。

小林 2021年の作品は「Mesh Virus-Control Flag Partition」。コロナウイルス対策用のパーテーションです。依頼主は、クリエイティブに重きを置くクライアント。自分達の施設に透明アクリルのパーテーションではない対策はできないかと考えていました。そこでデザインを施したメッシュのパーテーションをクライアントと検討を重ねつくりあげました。医療用にも使われるNBCメッシュテックのメッシュ素材に抗ウイルス抗菌技術を加工しており、通気性や音の通りを確保しつつ、ウイルスに対する安全性も実現しています。

「Mesh Virus- Control Flag Partition」 Red Dot Design Award 2021受賞作品

Photo Credit: Ooki Jingu

山田 メッシュ自体は白。そこに色をのせることで向こう側が見えやすくなる。それもこのメッシュ素材の面白いところです。2022年にグランプリをいただいたのは「Tsubame-Sanjo Factory Museum」。廃工場を舞台に、金属製品の産地である燕三条のものづくりにまつわる道具や動画を展示しました。

小林 審査員には、燕三条のものづくりを五感で伝えた点が評価されました。目で見たり耳で音を聞いたりすることはもちろん、工場跡地に残る匂いも含めて工場の中に入り込んで鑑賞する意義があります。美術館のように設備が整った空間ではないからできること。それは「ないならサークルを作ろう」という学生時代の経験に通じるものがあります。目的を定めて、見合う条件がなければ探す、作る。

「Tsubame-Sanjo Factory Museum」 Red Dot Design Award 2022受賞作品

Photo Credit_:
「燕三条 工場の祭典」実行委員会
©Tsubame-Sanjo Factory Festival Committee

山田 SPREADが大切にしているのは「体験のデザイン」です。モノ自体が目的ではなく、体験のためにデザインする。体験は時間軸によるイメージも大きいです。モノがありふれている今の世の中で、いかに生きるかという体験を大切にしたいと思っています。

Tsubame-Sanjo Factory Museum

授賞式映像

本当に大事なのは何?

新しさや今までにない体験を大切にしているのですね。

山田 まったく新しいというよりは、ずっとあるけど見逃されていたもの、価値を見出されていなかったものに光を当てる、という方が近いかもしれません。私たちは夫婦で7歳の子どもがいるのですが、多すぎる情報に接すると怯えてしまうところがあります。それもあって、見るべきものが見えにくくなっている今の時代に、デザインでできることを模索しているのだと思います。

小林 ホテルのブッフェって中華も洋食も和食もあってテンションが上がりますよね。でもそれは最初だけ。そういう時期はもう過ぎたように思います。

Photo Credit_Junya Igarashi

Photo Credit_Ooki Jingu

山田 コロナ禍前から私たちが思っていたことが、コロナ禍になって「何が本当に大切か」と人々が考えるようになり、SPREADの作品が伝わりやすくなったと思います。10年前は「SPREADって何屋さんなの?」と言われることも多かった。でも今はたくさんの人に伝わるようになり、「デザイナーでもアーティストでも、どっちでもいいじゃん」と堂々と言えます。それは、1期生として入学し体験した長岡造形大学の寛容さと創造性を育む校風も少なからず関係しているかもしれません。

小林 海外に行くと多様性って当たり前。違って当たり前の世界でお互い共存しています。いろんな道で、すべて肯定できる世界があるんだと分かりました。

自分だけの一次体験を

最後に、長岡造形大学の学生や高校生にメッセージをお願いします。

小林 早いうちに外の世界に出てほしいです。世界的なデザインイベント「ミラノデザインウィーク(通称:ミラノサローネ)」に10年に渡り出展していますが、言葉ができなくても行けば感じられることがある。ただ「自分のホーム」があるのは大事で、長岡造形大学というホームへの愛を持ったまま、パーンと外に出てほしいです。
先ほども言いましたが、今の時代は情報が多すぎる。情報を見聞きすると知った気になるけれど、世の中にあるのはほとんどが二次情報。それに惑わされず、自分が直接体験する「一次体験」やそれによって得られる「一次情報」を大切にしてほしいです。圧倒的なデザイン体験は、クリエイトの一つの指標になります。

山田 私は学生時代、お金を貯めては海外に行っていました。まさに百聞は一見にしかず。海外でなくても、国内でも近所でも、旅はおすすめです。体験は脳裏に深く残ります。私も興味があるというだけでイタリア語同好会を作り、そこで学んだ基礎知識が15年後のミラノサローネ出展で活かされました。その時は分からなくても、後から点と点がつながることがある。そのつながる瞬間が面白いんです。学生の皆さんには、ぜひたくさんの「点」を打ってほしいと思います。

PROFILE

SPREAD

山田春奈と小林弘和によるクリエイティブ・ユニット。長い時間軸で環境を捉えるランドスケープデザインの思考と、鮮烈な印象を視覚に伝えるグラフィックデザインの手法を融合させ、環境・生物・物・時間・歴史・色・文字、あらゆる記憶を取り込み「SPREAD=広げる」クリエイティブを行う。「カラーとコンセプト」を特徴にデザインに広く関わり、常に社会提案を心がける。
主な仕事に、東京ミッドタウン「Color Jungle」インスタレーション、「国立新美術館開館10周年」記念ビジュアル、工場見学イベント「燕三条 工場の祭典」、展覧会「Living Colours」(ロンドン)、展覧会「Color Appreciation」(ミラノ)、展覧会「Biology of Metal」(ロンドン)、展覧会「bring color intoyour life」(ミラノ)、空間デザインツール「HARU stuck-on design;」、コスメブランド「Celvoke」、「相対性理論」CDジャケットなど。

生活の記録をストライプ模様で表すアートワーク「LifeStripe」を2004年より発表。スパイラルガーデン(東京/2012,2021)、フオリサローネ(ミラノ/2012~)、Rappazmuseum(バーゼル/2014)、在スイス日本国大使館(ベルン/2015)、茨城県北芸術祭(茨城/2016)、Red Dot Design Museum Singapore(シンガポール/2019)など国内外にて展覧会を開催。

Photo Credit:Ooki Jingu

●「Red Dot Design Award」グランプリ受賞!についてのニュースはこちら