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とじる
2023.05.18 卒業生

卒業生にフォーカス ~夢の舞台「日本伝統工芸展」を目指して~

卒業生 川合里奈さん、美術・工芸学科 教授 菅野 靖 先生
卒業生の川合里奈さんが、昨年、第69回日本伝統工芸展に入選しました! 川合さんの伝統工芸との出会い、卒業後の制作についてお話を聞きました。

伝統工芸との出会い

日本伝統工芸展への初入選、そして日本伝統工芸準会員の認定おめでとうございます。入選作品は金工の作品ですが、川合さんはいつからこの分野や、金属工芸に興味がありましたか?

私は、大学に入ってから伝統工芸に触れて興味を持ちました。小さい頃からものづくりが好きで、ぬいぐるみに着せるための洋服を作ったり、牛乳パックでランドセルを作って担がせてあげたりして、工作を楽しんでいました。
大学で工芸を履修して、実際に作ってみたら工芸が合ってるなと思いました。そしてアクセサリー好きな祖母のために何か作ってあげたいと思い、彫金を選びました。

伝統工芸に初めに興味を持ったのは、4年生の時に銅や銅合金に深みのある色を施す「煮色仕上げ」の技法を学んだ事がきっかけです。この技法は、銅や銅合金で制作した作品を薬品液で煮るのですが、煮ると全然違う色に変わるので、昔の人はどうやって発見したんだろうと、とても興味を持ちました。

そのようなきっかけから、伝統工芸技法を用いたジュエリーを制作してみたくなりました。また同時に、日本の伝統工芸の技を色々な人に伝えていきたいという気持ちも高まってきましたので、作家を目指そうと思いました。

卒業制作「貝合わせ」
技法: 打ち出し、銀ロウ流し象嵌、打ち込み象嵌、切り嵌め象嵌、金彩

大学院から「布目象嵌(ぬのめぞうがん)」の世界へ

学部卒業後は、大学院に進学されましたね。

はい。今回受賞した作品の「布目象嵌」という技法への興味が深まったのも大学院でした。
布目象嵌は金工の技法のひとつで、主に鉄に布目状の溝を刻んで、そこに金箔や銀箔などをはめ込みます。大学院時代に、重要無形文化財保持者(人間国宝・彫金)の桂盛仁先生の工房に、指導教員の菅野先生と見学に行く機会があり、そこでますます伝統技法に興味を深めることとなりました。

大学院卒業後は、布目象嵌の第一人者であり、燕市に工房を構えていらっしゃる市川正美先生に師事しました。市川先生との出会いは大学院の時に出品した公募展です。
長岡市美術展に出品した作品が奨励賞をいただいた時に、私の作品を見てくださった陶芸家の方から、「市川先生が審査員をされている公募展があるから出してみたら」と声がけをいただきました。それで私も一か八かと思いつつ、「新潟県伝統工芸展」に出品しました。結果は無事入選することができ、そこで市川先生に展示会場でお会いできました。

修了制作・第7回 新潟県伝統工芸展 出品作品
「木目金高肉打出しブローチ ハート貝」
技法:木目金・高肉打出し

市川先生からは、ジュエリーに施すための布目象嵌を教わりたいと思っていました。しかし工房で、先生が「箱」を制作されているのを見て、私も箱を作ってみたいと思い、今に至ります。

「箱」というのは、川合さんが入選された作品の形ですね。今回の入選作品について、教えてもらえますか?

今回入選をいただけた作品は、制作に5ヶ月ほどかかったものです。いつも作りながら考えることが多く、この作品も作りながらあれこれ試しました。「次はこういう事を課したい」「こういうことができないか」と考えて、毎回色々とチャレンジしています。

第59回東日本伝統工芸展 奨励賞受賞作品「象嵌鉄線文銅箱」
技法:布目象嵌、線象嵌

第69回日本伝統工芸展 入選作品「象嵌鉄線文銅箱」
技法:布目象嵌、線象嵌

では、その挑戦が実を結んで、今回の結果になったんですね。

日本伝統工芸展は、大学院の時からの憧れでした。2013年に初めて展覧会を見て刺激を受けて、いつか私もここに出したいと目標にしてきました。でも、入選しなければ夢の舞台にも飾られることはないので、今までひたすら制作に励んできました。
日本工芸会の主催する数々の伝統工芸展で入選を重ね、2019年の第59回 東日本伝統工芸展では奨励賞を受賞することができました。そのとき時に、母校の大学の先生や伝統工芸の先生方からアドバイスを頂き、技術を高めて、今回「日本伝統工芸展」という夢の舞台に挑戦することができました。
その結果、なんと入選できて、東京の日本橋三越本展で自分の作品が飾られているのを見て、本当に嬉しかったです。でもそれと同時に、もう少しこうすればよかったかな、という新たな課題も見つけました。また次も頑張りたいと思います。

第59回日本伝統工芸展 三越エレベーター側 会場入り口

第59回日本伝統工芸展 展覧会の会場風景

長岡が刻まれた返礼品

現在、川合さんは長岡で工房を開きつつ、制作をされているんですよね

はい、現在は自宅の工房(自室とガレージの後ろに作った作業スペース)で、作品を作っています。2022年は、長岡市の返礼品として、布目象嵌銅合子(ぬのめぞうがんごうす)や、象嵌のブローチ、ペンダントの制作をしました。長岡の花火や、長生橋をモチーフにしています。この作品を通して、工芸に触れていただけたら嬉しいです。

象嵌のピンブローチ、ペンダント

布目象嵌銅合子「長岡の花火と長生橋」

布目象嵌を銅板に施している様子

指導教員の菅野先生、川合さんはどんな学生でしたか?

技法研究に大変熱心な学生でしたよ。そして書がうまい。線がとても美しい(笑)。川合さんが持つその様な繊細さが良いお仕事や素晴らしい表現に繋がっているのだと思いますよ。
「60〜70歳はハナタレ小僧」とも喩えられるほどに道のりが長い伝統工芸の世界ですが、こんなに早く東日本伝統工芸展奨励賞の受賞や本展の入選を果たしちゃうなんて凄いですね(菅野)

川合さんの様子を語る菅野先生

学生時代制作した彫金工房(左:菅野先生、右:川合さん)

PROFILE

卒業生/金工作家 日本工芸会準会員
川合里奈

第59回東日本伝統工芸展
https://www.nihonkogeikai.or.jp/exhibition/higashinihon/59/

〇展覧会
伝統工芸 新潟の技と美展
会期:令和5年5月10日(水)~15日(月)
会場:新潟伊勢丹 7階 イセタンアートギャラリー

第63回 東日本伝統工芸展
会期:令和5年5月17日(水)~22日(月)
会場:日本橋三越本店 7階 催物会場

第51回 伝統工芸日本金工展
東京会場
会期:令和5年5月20日(土)~6月8日(木)
会場: 石洞美術館

第51回 伝統工芸日本金工展 巡回展
札幌会場
会期:令和5年8月22日(火)~28日(月)
会場:札幌三越

日本工芸会金工作家による暮らしを彩る小品展
会期:令和5年8月22日(火)~28日(月)
会場:札幌三越 本館9階 三越ギャラリー

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美術・工芸学科 教授
菅野 靖