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とじる
2021.07.05 教員

写真によるアート表現を追求する

造形学部 視覚デザイン学科 松本 明彦教授

フィルムからデジタルに切り替わったのが写真の第一の転換期とするなら、カメラではないスマホで撮影しアプリで画像処理しSNSで発表するようになった今、第二の転換期の真っ只中。松本明彦先生は、常に写真の「今」を追求し、先進的かつ実践的な知識・技術・マインドを学生に伝えています。

アーティストとしての松本先生は、写真のリアリティとCGの非日常性を融合させたアート「D-graphy」の第一人者です。写真によるアート表現とその可能性についての講義や指導は学生の好奇心を刺激し、松本ゼミからはプロの表現者、写真家が生まれています。

不可能を可能に。写真の新表現に挑戦

先生はデザイナーから写真家に転身されたそうですね。

美術大学卒業後、4年間、自動車メーカーでカーデザイナーとして勤務していました、その後、写真に取り組もうと決意してNYへ。1年間写真を撮りためて帰国し、これからどうしようと思っているところに、友人が「一緒に作品を作らないか」と声を掛けてくれました。

その友人はCGクリエータ―で現女子美術大学教授川口吾妻。今では当たり前のことですが、写真とデジタルを融合させられたら、新しいジャンルが生まれるかもしれないと、彼とふたりで試行錯誤を重ねました。が、当時は1980年代、MacもPhotoshopもなく、HDは40Mバイト程度。「できる」と信じて、不可能を可能にしていったという感じですね。それがデジタルフォト、「D-graphy」に繋がりました。Photographyは光で描く、Computer graphicsはコンピューターで描くという意味ですが、 D-graphyはDesignで描く、Digitalで描くというWミーニングで名付けました。

写真の環境は劇的に変化

当時の写真とデジタルの融合とは、どういったものでしたか?

「D-graphy」は、写真のリアリティとデジタルだからこそ表現できる非日常の美しさを、一つの作品で表現するものです。「CGで作ればいい」「デジタルだから後で何とでもなる」というのは違います。写真自体をあくまでもリアルに、細部まで作りこんで撮影するからこそ、デジタルをプラスすることで、実際には見ることのできないシーン、見たことのない世界観が表現できるのです。今も川口とは一緒に作品を作り続けています。

私はフィルムもデジタルも両方経験していますが、今は、それ以上の変革が起きています。カメラ機材やソフトの進化で、職人やプロではない一般の人が撮影して加工できるようになりました。撮影の民主化です。そうなると、写真家はどうあるべきか――私が教えているのはここです。

新しい美意識に気づけるか

新しい写真教育で大切なことは何ですか?

変わったものは機材や手法だけではありません。誰もが気軽にスマホで撮影し、アプリで画像処理し、SNSで発信する「モニター時代」の現在では、印刷物とは異なる自由な縦横比、小さなモニターに瞬時に更新される「今」、説明的ではなく雰囲気を重視する表現など、美意識も変わっています。

そうした時代性や新しさに気づいてもらうことが、今、必要な写真教育だと私は思っています。言い換えれば、技術より、考え方。もちろん、1,2年生で、機材操作や構図、ライティングなどの基本はしっかりと教え、3年生からは自分自身で模索しながらテーマを探し、4年生では自分の世界を作っていく流れは用意しています。

変化はチャンス。行動あるのみ!

今、学生に伝えているのはどういうことですか?

実は、今の状況は、学生にとってはチャンスです。インスタグラムに上げることで、現在の最大の写真需要があるWeb上で、自分の作品を客観的に見ることができ、同時に、新しい才能を探しているクライアントにアピールできます。実際に、在学中に関係者の目に留まり、プロとして仕事を始めた学生もいました。ですから、プライベートとは別に、ポートフォリオとしてのアカウントを取り、積極的に作品をアップするよう勧めています。

コロナ禍で生まれたZoomグラフィーは、モデルと写真家が直接会うことなく、Zoomでつながってポートレート撮影をする新しい方法です。カメラで撮影されていると意識しないからこその空気感は、これまでにはなかったもの。学生には「新しいこと」に挑戦し、また「新しいこと」を生み出し、写真の最先端を走っていってほしいと思います。私も負けていませんよ。

視覚デザイン学科3年生 岩波花衣(イワナミ ハナイ)さん 撮影

作家としてのスタンスを学ぶ~学生の声

どのような学びや気づきがありますか?

広告制作の仕事を経て、映像作家として活動していましたが、もっと表現力を進化させたいと思い、松本先生のもとで学んでいます。今取り組んでいるのは、写真を素材として再構成し、新たな作品として生成するファウンドフォトという分野。写真のもう一つの可能性を拓くものです。

講義では、技術的なことや具体的なことだけではなく、作家としてのスタンスを哲学的に学んでいます。会話を通して先生と一緒に写真表現を追求しているといえばいいでしょうか。先生がデザイナーから写真家に転身されたこと、それが30代での挑戦だったことが自分と重なって心強く、意欲や努力に繋がっています。(大学院修士課程2年 飯塚純さん)

PROFILE

造形学部 視覚デザイン学科 教授
松本 明彦(まつもと あきひこ)