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とじる
2024.01.25 教員

【授業紹介】発想・着想演習
「どう作る?」の前に「なぜ作る?」を考える

2023年度にスタートした新学科体制に合わせて、授業内容もアップデートしている長岡造形大学。新たに始まった授業の一つが「発想・着想演習」です。

大きな特徴は二つ。一つめは、学科の異なる教員9名が担当し、9クラスに分かれて演習を行うこと。課題は共通ですが、クラスによって取り組み方やアプローチが異なるため、多彩な学びが生まれます。

もう一つは、長岡造形大学のカリキュラムの基本方針に関係します。本学はデザイン大学として「思考」と「創造」の両輪を修得することを重視しており、「発想・着想演習」は、「思考」について学ぶ授業の一つです。ちなみに「創造」に関する授業についても今後NIDフォーカスで紹介予定です。どうぞお楽しみに!

今回は気になる授業の内容を、デザイン学科の平原真准教授と、大学院造形研究科イノベーションデザイン領域の森本康平准教授に聞きました。学生の作品も特別に公開します!

100個の気づきを探してみよう

「発想・着想演習」は、どんな授業ですか?

平原
1年生後期の必修授業で、15コマあります。学科混合で4〜5人ずつのチームを組み、9名の教員が各クラスを担当し、一緒に課題に取り組んでいきます。課題は3段階あり、私たちは最終の第3課題を主に担当しています。

第1課題は〈トイレットペーパーの芯の課題を発見する〉。普段捨ててしまうものを活用するアイデアをチームで話し合い、発表してもらいます。

第1課題に取り組む学生たち

平原真准教授

第2課題は〈長岡造形大学の気づきや問題点を挙げよう〉、第3課題は〈その解決策を提案しよう〉です。第2課題はキャンパスを歩き回って観察し、気づきを100個挙げてもらいます。例えばこの教室なら、机がホワイトボードになっていて書き込めるとか、椅子をスタックできるとか。それをKJ法などで分類します。

キャンパス中を観察し、“気づき”を見つける

KJ法とは?

情報やアイデアを整理する手法の一つです。前期の「発想・着想概論」では、発想や議論のやり方、効果的なインタビューの方法、KJ法のような分析の方法を、デザイン思考のプロセスを踏まえて学びます。それを実践するのが後期の「発想・着想演習」なんです。

森本
気づきを挙げる時は、「プラスの気づき」「マイナスの気づき」「より多くの人に関わる気づき」「一部の人にのみ関係する気づき」といった多様な視点が大事。そこから重要な気づきを絞り込んでいきます。

森本康平准教授

視点を変え、アイデアを飛躍させる

そして第3課題の「気づきに対して提案する」へ進むのですね。

平原
はい。例えば「長岡造形大学は校舎が寒い」という気づき(問題点)に対してどんな提案ができるか。「断熱材を入れる」「暖房を強くする」といった直接的な解決策もありますが、この演習のポイントは“創造的な方法”で問題を解決すること。寒さの問題に対しては、例えば「厚着ファッションショーをする」といった飛躍した発想も考えます。

長岡造形大学に来る学生は、ものづくりが好きな学生が多く、それはそれで素晴らしいのですが、作ることにすぐに気が向きがちです。先ほどの例で言えば「校舎をあったかくしよう。じゃあどんな色や形の暖房器具がいいだろう」という感じですね。第2課題と第3課題をあえて分けているのも、作ることに飛びつく前に、さまざまな視点から気づき(問題点)を検討してもらうためなんです。

作る(解決のために動き出す)前に、気づき(問題点)についてじっくり検討する

森本
例えば「バケツに穴が空いている」という気づき(問題点)に対しては「穴をふさぐ」「買い換える」という解決策があると思います。それも正解ですが、ストレートな解決策の一本槍では、予算や法律など何らかの問題で実行できないとなると、そこで行き詰まってしまいます。今、デザイナーに求められているのは、柔軟に気づき(問題点)を捉え直す力、オルタナティブなアイデアを出す力だと思います。

授業で使うワークシートには、「モノ」「人」「環境」「社会」などと視点を変えて解決のアイデアを書き込むスペースがあります。先ほどのバケツの問題では、「人」の視点なら「バケツを雑に扱う人がいることが原因。大切に扱ってもらえるようにものづくりを体験してもらおう」とか、「環境」の視点なら「バケツが地面に置かれているから蹴られて穴が空いてしまう。棚を作ろう」といった感じです。

視点を変えることでアイデアの幅を広げるワークシート

視点を変えることで全く違うアイデアが生まれますね。

そうなんです。実現可能かどうかはさておき、まずは幅広くアイデアを出すことがポイントです。

「作らない」もデザイン?

学生の発表はどんなものがありましたか?

平原
私の担当するクラスでは「長岡造形大学をおなかいっぱいにする!」という発表が面白かったです。「おいしいものをおなかいっぱい食べる=幸せ」という発想と、長岡造形大学は県外出身者が多いという気づきから、「地元飯グランプリを開催する」というアイデアが生まれました。投票でグランプリを決める特設サイトも作りました。

「長岡造形大学をおなかいっぱいにする!」発表スライドより

森本
私の担当するクラスでは「どうする!?寝不足」というテーマで取り組んだチームが良かったです。授業中に眠そうな人が多いという気づきから、まずはアンケートを取り、学生の睡眠事情を調査。すると実際の睡眠時間のほか、「大学で寝る場所がない(環境の視点)」「徹夜を美徳とする風潮がある(社会の視点)」という寝不足の理由もいろいろと挙げられました。

最終的にそのチームが提案したのは「大学内に寝る場所を作る」というアイデアでした。空き教室を開放し、図書館にある普段あまり活用されていない映像資料をスクリーンに投影します。「授業中はよく眠れる」という心理効果を生かし、難しくてつい眠くなる、でも起きて視聴していてもためになる映像を、薄暗い照明の中で上映するというものでした。

第3課題(H-6_ウィルダーナチュラルウーメン)
「どうする!?寝不足」発表スライドより

この提案は、「仮眠ルームを作る」といった直接的なアイデアに飛びついて、ハードウェアのデザインを追求するのではなく、今ある大学の資産を有効に活用して組み合わせているのがいいところ。実効性が高いですし、大学で寝るという一見悪いことのように思える内容にも関わらず、説得力のある提案につながっています。

平原
この授業らしい提案ですね。問題を解決するために何を作るのか、なぜ作るのか、そもそも作る必要があるのか。そういった考え方を学ぶことはこの授業の重要な目的です。デザインは、必ずしも色や形を作ることだけではありません。「作らなくてもいいんじゃない?」というのもデザイン的な解決策の一つ。最終提案ではスライドを制作しますが、その見た目のきれいさは重要ではなく、提案に至るプロセスや議論の内容がポイントです。

ちなみにこの第3課題は、全63チームの提案内容を1年生全員に公開し、気になったものにコメントを書き込めるようにしました。他のクラスの発表を閲覧することで、良い刺激にもなったと思います。

最後はチームごとにスライドを発表

「発想・着想演習」は、次の学年にどうつながっていきますか?

平原
2年生になると前期の基礎演習、後期のデザイン演習などデザイン学科のみならず、どの学科もだんだんと専門性が上がっていきます。通常は教員から課題が課されますが、4年生の卒業研究になると自ら課題やテーマを設定します。

「発想・着想演習」で得られるのは「どういうものを作ることが世の中にとって幸せか」という着眼点。それを持ってもらうと、2年生以降の専門性を生かした制作で、より良いテーマ設定ができると思います。

授業には学部生、院生のTA(ティーチングアシスタント)が毎回入り、チームでの学びをサポートしてくれるのも特徴

回を重ねるごとにチームワークがどんどん良くなる

森本
この演習では、いろいろな学科の学生が混じってチームを作ります。グループで一緒になった仲間と、先々につながる友人関係が築けることも大きな財産だと思います。

平原
先日15コマの授業が終わったばかりなのですが「もう来週からこの授業ないんでしたっけ…」と寂しそうにしている学生がいました。異なる学科の友達は貴重なので、授業が終わった後も関係を持ち続けてほしいですね。

関連情報

「ゼミ展2024 デザインの学び方を知る」

「発想・着想演習」(1年・必修)の授業で取り組んだ成果を、東京ミッドタウン・デザインハブで開催中の「ゼミ展」にて展示しています。
本学を含め、デザインを専門とする9校10ゼミが出展していますので、ぜひご覧ください。

会期:2024年1月10日(水)〜2月25日(日)11:00~19:00
会期中無休・入場無料
主催:東京ミッドタウン・デザインハブ
詳細はこちら

PROFILE

デザイン学科 准教授
平原 真(ひらはら まこと)
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大学院 造形研究科 准教授
森本 康平(もりもと こうへい)
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