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とじる
2024.03.26 教員

【授業紹介】美術・工芸基礎演習
将来の「生き方」をデザインするための授業

数ある中から注目の授業を紹介するシリーズ。今回は、美術・工芸学科の1年生が履修する「美術・工芸基礎演習」にフォーカス。岡谷敦魚准教授長谷川克義准教授にお話を聞きました。

平面、立体から、写真まで6つの課題に挑戦

「美術・工芸基礎演習」はどんな授業ですか?

岡谷
まず、美術・工芸学科には美術領域とクラフトデザイン領域の二つの領域があり、その中に絵画・版画・彫刻、鍛金・彫金・鋳金・ガラスの7分野があります。高校生は絵画や版画などの平面作品制作の経験はあるかもしれませんが、立体造形やクラフトデザインの経験がある人はあまり多くないと思います。

左から 長谷川准教授、岡谷准教授

この授業は、平面、立体、クラフトデザイン、そして写真撮影まで幅広く経験できるのが特徴です。写真は、自分の作品をどう見せるか考えて撮影したり、就職活動に向けたポートフォリオを作成したりするのに役立ちます。

版画の授業風景

長谷川
授業では6つの課題に取り組んでもらいます。立体造形、絵画、版画、塑像、クラフトデザインの各分野の技術を使って器やカトラリーを作る課題を経て、最後に写真の課題に取り組みます。

線材を使った立体造形

カリキュラムを作る際に重視したのが「自主性」と「専門性」です。2023年度からスタートした新しいカリキュラムでは、授業時間以外も作業ができる時間を増やし、学生自身が自由に制作を進められるように変更しました。これは、自主性を育み各自の望む専門性を深めてもらう目的があります。

岡谷
今年度は新カリキュラムの最初の年。どうなるかなと思っていましたが、作品を見るとかなりしっかりと作られていて正直驚きました。確かに自分の学生時代を振り返ってみても、自分のペースで自由に制作できる方がやりやすかったですね。

塑像の作品

長谷川
今年度の美術・工芸学科は個性的で多様な学生が集まっている印象。自主性を重視する新しい授業スタイルにマッチしているかもしれませんね。

2年生に向けて自分の軸足を決めていく

美術・工芸学科の学生は、入学の時点で絵画や彫刻などやりたい分野が決まっている人が多いですか?

岡谷
ある程度決まっている学生が多いですね。それでもこの授業で幅広く経験する意味は大きいと思います。絵画を希望していた学生が初めて立体造形に触れてその面白さに目覚めたり、その逆もあったり。さまざまな課題やデザインの素養を深める授業を受けるうちに、希望する分野が変わる学生は一定数いますよ。

自分の進むべき道を決めていくことが、この授業の目的でしょうか?

長谷川
そうですね。美術・工芸学科では2年生になると前期では7つの分野から自分の興味のある分野をいくつか選択することができますが、後期には一つに絞って、自分の将来希望する進路を目指します。

この授業を受けるのは分野を決定するちょうど1年前。授業の初めには「各自が望む専門と進路を決めていくことを考えながら課題に取り組んでほしい」と学生に伝えています。

カトラリーの作品

実際にスイーツやフルーツを盛り付けてコーディネートに挑戦

岡谷
1年生の後期は「美術・工芸概論」という授業を、この「美術・工芸基礎演習」と並行して開講しています。「概論」と「演習」、言い換えれば「思考」と「創造」をリンクさせながら学ぶんです。そうすることでより深くスッと入って来やすく、どんな道に進みたいか見えてくるところもあると思います。

長谷川
もう一つの目的は、先ほども話したように「知らなかったことを知る」ということ。今まで触れたことのない未知の分野の課題に取り組んだとしても、やるうちに興味を持つかもしれないし、自分の専門に生かせるかもしれない。多様な経験をすることが大切だと思っています。

工房には設備が充実していますし、2年生や3年生も出入りします。その空気を感じることも、自分の進路を決めるヒントになるかもしれませんね。

工房での制作風景

大事なのは「どう生きていくか」

どの分野に進むか、というのは早く決めた方がいいのでしょうか?

長谷川
早めに分野を決めれば卒業後の進路について早めに活動できるかと思います。ただ、多くの学生が自分の学んでいる専門分野に関連する就職先を探そうとするのですが、必ずしもそこにこだわらなくてもいいんです。

大事なのは分野を決めること自体よりも、「どうやって生きていくか」を考えること。その分野を学び、どのように自分の強みを生かしていくか。それが決まっていれば、どんな就職先でも、あるいは進学してもいい形につながると思います。

岡谷
そうですね。将来に向けて「こういうものをやるんだ」という覚悟を決めるというか、軸足を定めると考えるといいかもしれませんね。

作品と向き合う時間は、自分と向き合う時間

自分の専門性を見つけるには、どんなところを意識してこの授業を受けたらいいでしょうか?

岡谷
単に技術を修得するだけではなく、「つくることで、手を動かしている人間にどのような影響があるのか」という部分に着目してほしいと思います。

私が教えている版画は「ビジュアルイメージをたくさん複製すること」が特徴だと思われやすいのですが、今の時代、たくさんの人にビジュアルイメージを見せるなら写真を撮ってSNSにアップする方が断然多いですよね。

岡谷准教授による版画の授業

版画をたくさん刷ることを目的にすると、「きれいに刷る技術」を身に付けることに目が向いてしまう。それよりも、版画の技術によって自分の表現したい内容にどのような変化があるのかを感じ取ることが重要だと思います。

岡谷准教授

キャンバスなどに直接描く絵画と違って、版画は「間に何かが挟まる」ことで、自分の思うようにならない、予想と違う表現が生まれやすい特徴があります。こうした版画の特殊性を「どうにもならない素材を相手に自分を表現する」と捉えれば、社会に生かせる道が広がると思うんです。

もちろん技術を修得することは大事ですが、ただシルクスクリーンを上手に刷る方法ならYouTubeでも勉強できます。そうではなくて、技術の先にあるものに目を向ける。そこに大学で学ぶ意味や価値があると思います。

長谷川
クラフトデザインは、技術があってこその表現という側面が強いかもしれません。でも、鋳金で金属を流して思うようにならなくても「これもかっこいいじゃん」ということもある。技術を得ることで表現の幅が広がるという点では、平面も立体も同じなんでしょうね。この「美術・工芸基礎演習」は、技術を学ぶだけでなく、将来の進路を見据えた多様な生き方をデザインするための授業と捉えてもらいたいです。

長谷川准教授

最後に、高校生にメッセージをお願いします。

岡谷
学科の中にいろいろな専門分野がありますが、自分の軸足を持ちつつ幅広く経験し学ぶこと。それが本学の考える「専門」ということが伝わってほしいなと思います。

長谷川
高校生のうちはやる気があればOK。初めてのことや苦手意識があることもやってみる、そして失敗を怖がらないこと。学生ならなおさら、失敗してなんぼです。楽しみながらチャレンジしてほしいですね。

PROFILE

美術・工芸学科 准教授
岡谷 敦魚(おかのや あつお)

美術・工芸学科 准教授
長谷川 克義(はせがわ かつよし)

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