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2023.06.22 教員

デザイン思考と実践で、これからの時代を生き抜く学生を育てたい

学長 馬場省吾 先生(写真左)
造形学部長 渡邉誠介 先生(写真中央)
大学院 造形研究科長 小松佳代子 先生(写真右)
2023年度から新学科体制がスタートした長岡造形大学。私たちの大学がこれから目指す未来とは?
馬場学長、渡邉学部長、小松研究科長が語り合いました。

デザイナーの「ぶっとび系」創発力が求められている!

まずは自己紹介をお願いします。

馬場:学長の馬場省吾です。出身は「鉄道のまち」として知られる埼玉県大宮市。私は金属工芸の中でも「鍛金」を専門としています。長岡に来たのは29年前、この大学が開学するときです。大学を卒業して作家活動をしていた36歳くらいのときに「新しい大学ができるから教員としてどうか?」と知人から声をかけてもらいました。

渡邉:学部長の渡邉誠介です。生まれは横浜で、8歳まで湘南の辻堂で育ちました。都市計画に興味があり、長岡市の長岡技術科学大学へ。その後東京大学の大学院で博士号を取りました。長岡は親戚の縁もあり、私にとって「第二の故郷」。地方で最初のニュータウンができたりと、都市計画においても興味深いまちです。

小松:大学院の研究科長をしている小松佳代子です。出身は兵庫県伊丹市。専門は教育学で、2007年から東京の美術系大学でアーティストへの論文指導に携わっています。2018年に本学の大学院が再構築されたタイミングで着任しました。

これからの時代にデザインの大学で学ぶ意義とは、どんなことでしょうか?

馬場:デザインといえば、昔は製品など形あるもののデザインが主流でした。しかしここ15年くらいは、デザインが新たな目的や必要性を問うのに不可欠なキーとなっています。ものを創る、何かを始める前提条件として、どんな環境が良いのか、問題はどこにあるのか。そこから気付く発想、デザインのプロセスが求められているのです。持続可能な地球や社会にするために、行政、企業、教育などさまざまな分野で「デザイン思考」が求められています。

渡邉:デザインに興味のある学生のほとんどが「こういうものを作りたい」というプロダクトアウトの考え方を持っていると思います。しかしデザイン思考を学ぶと、社会の課題や人々のニーズを中心に考える「マーケットイン」の見方ができるようになります。それがデザインの大学で学ぶ意義ではないでしょうか。本学の学生は、面的というか3D的というか、数式では表せないような思考パターンが得意なように思います。VUCA(先行き不透明で予測困難)の時代と言われる今、デザイナーの「ぶっとび系」の創発力が求められています。本学で学ぶことで、それを実装化する力が身につくと思います。

小松:色や形のデザインスキルだけを学ぶなら、大学は効率が悪いかもしれませんよね。他の教養科目もありますし、大学院なら論文も書きますから。でも、デザインの定義自体が変わっている今、自分がしていることの意味や社会的な広がりを俯瞰するには、スキルだけの学びでは追いつかない。デザインはさまざまな社会課題と無関係でいられないと同時に、単なる概念ではなく、身体や感覚や感情とも結びついています。根源的なところまで広がりと深さを持って学び、それを基盤としたデザイン力を身につけて社会に出れば、より良い未来が開けるのではないでしょうか。

馬場:そうですね。色や形はデザインにはマストな要素ですが、それだけではない。社会の裏側にあるものや先にあるもの。そういった広がりを通して課題を見据える力を持つ人が、今、必要とされています。

社会の主流ではなく、本質を探究する

2023年度に学科編成が新しくなりました。どんなことを学べますか?

渡邉:一番の特徴は、スタジオ制による学びがスタートしたこと。これにより学生は、異分野と融合する「オープンイノベーション」の学びを選択できます。そこで生まれるのは、新たな学びやワクワク感。イノベーションを楽しみつつ、これまでにない成功体験を積み重ねることができます。

馬場:新しい発想、新しい気づきを学生自身がつかみ取ること。教員はそのための環境づくりやサポートをする。大学はそのための教育機関である、という原点に立ち戻っているともいえます。

渡邉:2023年度入学の1年生が新カリキュラムで動いているのですが、プログラミングの授業は予想を超える人気。時代の変化を感じます。

小松:本学大学院は2018年の大改造で、学部にはないイノベーション領域を置きました。その領域ではデザインのあり方を研究し、学部にフィードバックする動きが出てきています。理論と実践を行き来できるところが、本学大学院の強みと言えると思います。

 

新しくなった長岡造形大学で、どんな学生を育てたいですか?

馬場:先行きが不透明な時代に、自分の立ち位置を自分で作ることはとても重要です。本学では、最初は「デザインをやりたい」というふわっとした感じの学生が多いのですが、自分が生まれた地域への愛着が強く、「ここで学んだことを故郷にどう還元するか」という意識の高さには驚かされます。本学は、いろんな知見を得ながら自分の方向性を煮詰めていくことがやりやすい大学です。それは自分の「根幹」を構築するということ。もっといえば、「自分がどうやって生きていくか」という立ち位置を決めること。しっかりと強い根を持って社会に出れば、たとえ状況が変わっても、自らを再構築できる。そういうしぶとさのある学生を社会に送り出したいですね。

渡邉:本学を志望する学生は、芯を持っている人が多いと感じます。地方出身が多く、地元の良さも問題点も、卑下することなく見ることができる。そういう学生が、将来自信を持って活躍できるように指導していきたいです。

小松:コロナ禍で経験した通り、今の社会は、既存の価値観に従っているだけでは普通に生活することさえ奪われかねない不安定さがあります。そういう時代にどう生きていくか。大学は社会の価値がそのまま入ってくるわけではなく、相対的に区別された環境で根源的なことを問うことができます。「社会でこれが流行ってるからこうしよう」ではなく「社会ではそうだとしても、その土台にあるものはなんなのか」と原理まで遡れるのが学問のいいところ。例えば私が大学院で担当している「美学」は明日すぐに役立つものではありませんが、数十年後に効いてくる。そういう思考の深さを持ち、社会や個々の課題と向き合う学生を育てたいと思います。

誰と学ぶか? 誰に学ぶか?

地方出身の学生が多いとのことですが、まさに地方都市である長岡市で学ぶ意義とは?

渡邉:長岡には4つの大学と1つの工業高等専門学校があります。それらの学校の学生が誰でも受けられる「長岡学」という授業を今年度から始めたんです。そこでよく話すのは、長岡は戦争で2度も甚大な被害を受けたにも関わらず、不死鳥のごとく復興した歴史があることです。有名なのは、戊辰戦争のお見舞いである百俵の米をすぐに食べずに、蓄えたお金で学校を作ったこと。それも当時としては画期的な「国漢学校」というスタイルで、学生の身分も区別しなかった。まさにオープンイノベーションの考え方であり、本学のDNAの一つになっていると思います。産学連携や地域連携が昔から盛んなところも、他の地方都市と違う特色だと思います。

馬場:本学が開学する際も、市民の税金が多く投じられました。県庁所在地ではない地方都市に、しかもデザイン大学を作るのは大変なことだったと思います。その理解があるのも長岡ならではですし、市民の方からも「ちょっと変わった大学だけど、学生はそういうのが好きで来るんだよね」とあたたかい声をいただいています。

渡邉:ちなみに「長岡」は「NGOK」とも書ける。失敗しても全然OK、チャレンジ大歓迎のまちなんです。

馬場:なるほど(笑)。学生に聞いても、この環境は落ち着くようです。海もあり山も近い。春の芽吹きや夏の暑さ、秋の実りと冬の雪。ものを作るうえで欠かせない「感性」も、豊かな自然や四季から大きく影響を受け作用すると思います。

小松:私はまだ長岡に来て6年目ですが、歴史の厚み、文化の厚みはものすごく感じます。ドイツのワイマールはバウハウスが生まれた場所ですが、どうしてこんな小さなまちに知識人が集まったのだろうと考えると、人が人を呼ぶんですね。大学(ユニバーシティ)の語源である「ウニベルシタス」は「協同組合」という意味で、つまり大学は「知の協同組合」。自然の豊かさや市民の方々の理解もさることながら、大学を作るのは学生と教員。誰と学ぶか、どのような先生に学ぶかということが重要で、それがこの大学で学ぶ意義だと思います。

自分自身の体験で蓄えられる、デザインの力

長岡造形大学がこれから変わるところ、これからも変わらないところは?

馬場:本学は4〜5年ごとに学科とカリキュラムを改変してきました。こんなに変わり続ける大学もめずらしいのでは。でも、社会の変化にいち早く応じることで、新しい領域の先生も来てくださいます。いつも前を向き、改善する意識が強い大学と言えると思います。でも開学から変わらないカリキュラムもあります。学部共通の基礎造形系授業や、地域協創演習系授業がそうです。学部の全学生が参加し、分野を横断して受講します。また学科混合チームを組み、それぞれの専門視点を活かした地域や企業の課題を解決する授業です。

渡邉:今年度からテクノロジー×(クロス)デザイン領域が誕生しました。地域協創演習ではどんな変化が生まれるか楽しみですね。私たち教員も想像しなかったようなモノ、コトが出てくるかもしれない。

馬場:この授業でおもしろいのは、教員も専門分野に関係なく関わるところです。自分の領域外をどう指導するか。先生は非常に熱心な方ばかりです。学生の能力や可能性を見つめ、親身になってくれるのは本学の特色の一つだと思います。

小松:そこは本学に来て特に驚きました。私はいつも夜8時頃に大学を出るのですが、研究室の多くはまだ明かりがついていて、教員が学生の指導をしています。教員の熱心さは本学の変わらない文化なんでしょうね。学長がおっしゃる通りカリキュラムの改変も多く、教員は楽ではありません。過去の授業ノートをそのまま使えたら教える側は楽ですが、あえてそれをやらない選択をしている。未来を先取りして歩みを止めない、「変わらずに変わっていく」ということなのだと思います。

鍛金・鎚起工房で金属を叩く学長。学長が制作をする姿は変わらない。

最後に、大学や大学院が目指す未来について聞かせてください。

馬場:時代のニーズをしっかりと捉え、学生一人一人の人生を豊かにするための教育を構築し続けること。それが結果として豊かな社会を築くことに資するのだと思います。そのための課題も一つ一つクリアしていく。今後もそういう大学であり続けたいですね。

渡邉:長岡には醤油や味噌づくりが盛んな「醸造のまち・摂田屋(せったや)」があります。人間の成長も、醸造や発酵に例えられると思うんです。チャットGPTをパソコンの外付けハードディスクのように考える人もいますが、自分で読み書きして咀嚼したことは、頭の中で発酵し、数年後の新しいアイデアや仕事のやり方につながっていく。だから外部メモリに情報を入れただけで満足しないでほしいんです。リラックスした状態でいろんな体験や知識を取り入れ、そこからゆっくりと、デザインの力を醸造・発酵させてほしい。より良い発酵を促すように、安全で安心な環境を守ることが大学の役割だと思います。

小松:長岡造形大学大学院は、実践的な大学院を目指しています。また、地方の小さな大学院だからこそ自由で新しい研究ができると思います。フィンランド、ポルトガル、スペインなどヨーロッパの周縁地域では「Arts-Based Research(芸術に基づく探究や実践)」が発展しています。そうした新たな研究を展開できる地域や大学院になっていくこと。それが私の夢です。

PROFILE

学長
馬場 省吾

造形学部長
渡邉 誠介

大学院 造形研究科長
小松 佳代子