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2022.01.12 教員

既存建築の再生から仕掛ける街のリノベーション

建築・環境デザイン学科 准教授 津村 泰範先生
江戸の蔵、明治の擬洋風建築、昭和の洋館などの古い建築物を修復し、「文化財や歴史的建造物を活かしたまちづくり」を進める津村先生。それは、単なる建築や都市のデザインだけでなく、法や制度の知識、さらに、地域の人たちとのコミュニケーション力も求められる、幅広い分野です。

現在先生は、研究室の取り組みとして、3,4年生とともに、長岡市中心市街地にある互尊文庫、十日町市の角屋別館、長岡市与板町の老舗茶屋・田中清助商店の蔵などの活用・リノベーション計画を検討しています。時代を経た建築物の再生について、津村先生に伺います。

古い建築物をどのように活用するか

先生が古民家再生に興味を持たれたきっかけは?

母方の祖父が書家で、戦前に建てられた純和風の家に暮らしていました。その古くて暗い家が好きで、遊びに行くのが楽しみでした。ですが、一緒に住むことになって二世帯住宅にするために建替えたら、同じ木造和風でも1980年当時普通の家になり、「昔の方がよかった」と思ったのが、もしかしたら出発点かもしれません。近代洋風建築シリーズの切手を集めたり、理想の間取りを描いたりしていた小学生だった僕は、その後、建築の道に進みました。

個人的に好きなのは大正~昭和初期の洋館なので、それらの多い函館や神戸、横浜のまちは好きです。新潟も同じように開港都市ですが、その頃の建築物はあまりないですね。が、ちょっと時を戻してみると、明治に建てられた新潟運上所(旧・新潟税関)が残っていて、それは、地元の大工が見様見真似で建てた擬洋風建築。明治に建築された税関施設がそのまま残っているのは開港五港の中でも新潟だけ。そういう点では価値があります。とはいえ、残っていたから価値が高まったという、周回遅れがトップランナーになったようなケースなので、市民と価値の共有を図っていくことが必要になるでしょう。数年前の活用計画をつくる際にはまだ本学着任前ですが僕も加わりました。文化財として保存・管理されることだけが目標ではなく、どういう価値を付けてその場を活用していくかがより大事なのです。

【写真】2017年7月 広島県尾道市旧尾道商業会議所(尾道商業会議所記念館)〈尾道市 重要文化財〉議場にて

【写真】2018年8月 兵庫県丹波篠山市日置中立舎前にて

再生計画は「今」とのせめぎ合い

実際にどのような活動をしていますか?

本学の建築・環境デザイン学科 平山育男先生とともに担当している文化財保存コースでは、3年生は後期の演習授業の課題として、主に長岡市周辺の古い建築物の活用計画や実際の運用に取り組んできました。今年は長岡市摂田屋のサフラン酒造本舗の鏝絵蔵、昨年は長岡市栃尾の民家、一昨年は三条市一ノ木戸商店街にある佐善商店を活用してリノベーションする提案などを行ってきました。その他に研究室として取り組んでいるものもあります。長岡市と大学が協働したり、建物のオーナーさんから大学に依頼が来たり、様々なケースがありますが、デザインの力を地域活性につなげるというベースは同じです。

古い建物と言っても、今、存在している建物はすべて過去に建てられたものなので、対象にするものは広く、長岡市の中心市街地では戦後に建ったビルの再生案件も守備範囲です。歴史の長さや建物の用途・種類に関わらず、建築物の特徴や傷み具合を調べ、どう活かしてどう残せるかという価値判断をするのですが、ここに主観が入ってしまう。だから、気持ちが先走らないよう、知識や技術、広い視野を学ばなければならないのです。構造についての技術的な視点、現在の法や制度の知識、都市計画との関わり、コスト管理、そして、活用に際して現代設備をどこまで採用するかなどなど。再生は、いつも「今」とのせめぎ合いです。でも最後に大切なのはやっぱりそこにある建築や今いる街が「好き」だという気持ちかな。使い続けてこそ建築なので。楽しんでこそ街なので。

【写真】長岡中心市街地での「ブラツムラ」の一コマ。アオーレ長岡のナカドマです よ。実は長岡城二の丸跡。ココ。

研究は結果よりプロセスが重要

学生へメッセージをお願いします。

対象とする建物の種類や規模、年代などは実に様々で、活用の方法も千差万別。入り口はたくさんあるので、研究テーマを決めるときに路頭にまよっちゃう学生もいます。何でもいいと思うんです。難しく考えすぎず、自分のやりたいことを選んでほしいです。そして、研究の方法も自分で考えて自分で作っていけばいい。定型に走らず、こうあるべきと決めつけず、短絡的に答えを求めず、人それぞれに進めていってほしいですね。悩んだときにヒントを与えるのが教師の役割で、その自信はありますから、頼ってほしいです。その結果、まとまらなくてもそれはそれでいいです。重要なのは、結果より「考えた」というプロセスですから。

 

長岡造形大学の「ここが好き」~学生の声

津村ゼミで経験したことを教えてください。

建築志望で、実技が多く、幅広い経験ができる大学を探して、当学に入学しました。卒業研究では、明治・大正・昭和に書かれた小説の中の空間を現実にするというテーマを設定しました。その中で、夏目漱石と谷崎潤一郎を取り上げ、文章で描かれた空間を設計という形にしました。卒業後は、地元・愛知県で寺社建築に強い工務店に就職が決まっています。(4年/伊藤茜音さん)

私も実技重視でこの大学を選びました。普段の暮らしの中で人と人が出会うこと、つながりを作ることが少なくなっていますが、それは建築の力で解決できるのではないかと思い、「人が来る仕組みづくり」を卒業研究にしました。卒業後は、古民家改修も手掛ける工務店に就職し、地域に貢献したいと思っています。(4年/花里美鈴さん)

建築を目指すというのではなく、建物に興味があったので、好きなことについて幅広く経験できるこの学校に入学しました。私の地元の函館では、徐々に古い建物がなくなっていて、そうするとそれにまつわる記憶もなくなり、寂しい思いをしてきました。だから、古い建物をどうにかしたい――そのために何をしたらいいかを今、考えています。(3年/竹髙亜海さん)

伊藤さん

花里さん

竹髙さん

長岡の「ココが好き」~先生の声

長岡の印象はいかがですか。

本学に着任したのは2016年ですが、実は、20年ほど前に初めて設計担当として確認申請を出したのは長岡市の個人住宅。和風住宅を好んだお施主さんがわざわざ当時所属していた長野県の設計事務所に依頼してきたものでした。赴任してほどなく探しに行ったのですが、途中で担当しなくなったこともあって場所を覚えていなくて見つけられず、そのまま時間が経っちゃいました。

趣味は、スポーツ観戦と、古い建物、丸型ポスト、マンホールなどを探しながらのドライブと街歩き。今、気になっているのは、長岡の隣の燕市吉田町の今井家住宅というお屋敷です。明治から昭和初期にかけての建築群で、国指定の重要文化財にできないか、いろいろ考えているところです。特にその中の旧今井銀行が活かせると地域に勢いがつき、開けていくでしょうね。地域の宝になりうる建築物なので、各機関と広く連携しながら進めていきたいと思っています。

 

PROFILE

建築・環境デザイン学科 准教授
津村 泰範