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とじる
2023.07.05 教員

テクノロジーの様々な面に目を向けよう

デザイン学科助教 伊達 亘 先生
2023年度にスタートした新・デザイン学科の助教に着任した伊達亘先生。主に「テクノロジー×(クロス)デザイン」領域の授業を担当します。
伊達先生ってどんな人? ユニークな発想の原点は? いろいろなお話を聞いてきました。

テクノロジーを活かしたプロジェクト

先生のこれまでの活動について聞かせてください。

高校3年の夏になるまでは、海の研究をする大学に進学するつもりでした。でも少し体調を崩したりして将来のことを考えていた時に、ふと身の回りを俯瞰してみると、科学雑誌のエディトリアルデザインから自分が様々な興味を得ていたことに気付きました。「デザインはあらゆる分野に横断的に関わることが出来るのではないか!?」と思い、一浪して美大に進学しました。

美大に修士課程まで在籍後、フリーランスでグラフィックやウェブデザインの仕事をしながら博士課程でメディアやデザインについて研究しました。「モノ作りの実践と体験を通した調査・物語・問題を言語化していく事」が私の研究の柱であると思います。例えば、通常はデザインを印刷するために作られた紙を選びますが、形状や素材を考えて紙そのものを造形する手法として「PaperPrinting」を開発・研究しました。

《PaperPrinting》既存の紙を原料とする紙のデジタルファブリケーション研究

3Dプリンタで紙を作る。すごくおもしろいです。現代の紙漉き、といった感じでしょうか。

既に使われた紙から紙漉きの材料のようなものを作り、造形時のストロークの形状を変えたり、材料を組み合わせて半透明の部分を作ったりして、これまでの紙漉きや人の手では作れない造形を生み出すことを企図しています。2018年にはSIGGRAPHというカナダのバンクーバーで行われた国際学会に採択され、その場で参加者が紙をデザインして造形するワークショップを実施しました。周りがHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やプロジェクタを使ったきらびやかなプロジェクトを発表している中で紙を造形したのは、CGの学会の中でも特殊な空気を作ったんじゃないかと思います。

バンクーバーで開催されたACM SIGGRAPH 2018、ブースの様子

また、2020年に横浜の象の鼻テラスで開催された「ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT」では、その場所で汲み上げた海水の塩分濃度を上げ、LEDに塩の結晶がまとわりつくことで光をデザインするインスタレーションを発表しました。容器の中で塩が結晶化するまで11時間くらいかかり、雨が入ったりすると20分くらいで一気に溶けて、気候や置かれる場所の条件によって成長に変化が生まれます。モノが作られる過程と環境や人の介在性について考えた作品です。

《Gleamharvesting》汲み上げた海水に含まれる塩の結晶から生まれる光のインスタレーション

利便性とは異なる進歩を考えてみる

先生の発想の原点は、どんなところにあるのでしょうか?

新しいテクノロジーが生まれると、これまでになかった表現や体験が生まれます。同時に、古くなるテクノロジーもあります。けれど古くなって終わりではなく、新しい使い方や気付いてなかった特性が見えてくると思っています。例えば、本はタブレット端末一つで何百冊も持ち運べるようになりましたが、紙の本が持つインキのにおいやページをめくる触感などの物質性の大切さに気付きます。

《Drawing Demonstration》触覚刺激による絵を描く行為を伝達するインスタレーション作品

テクノロジーをデザインの視点から見つめると異なる未来像が見えるのかもしれません。利便性だけではない技術の進歩の方向性や、パラレルワールドのように「あったかもしれない/ありえるかもしれない世界」…。そんな視点も発想のベースにあるかなと思います。

長岡造形大学ではどんなことをしたいですか?

学生たちと一緒に、新しいテクノロジーを活用した表現研究を行いながら、これからのテクノロジーについて思索的に考えたり、これまでのテクノロジーを再解釈する「テクノロジー×(クロス)デザイン」に取り組んでみたいと考えています。グラフィックデザインやプロダクトデザインは、長い歴史を経て教える手法が確立しているデザイン分野ですが、テクノロジーは常に変化していくもの。私にとっても未知な事が多い分野です。未知なデザインの開拓には新しい価値観を持った学生たちとの対話が重要だと思いますし、私たち教員は10年…いや100年先のテクノロジーと生活の関わりを見据えていないといけないのかもしれません。もちろん、フリーランスのデザインの仕事もこれまで同様に並行していくので、教えるだけでなく私も新たな気付きをもらって現在のデザイン業務に反映していきたいと考えています。

それ以外に、地域や伝統産業とのつながりを生かしたチャレンジもしてみたいです。長岡造形大学はデザインのテクニックの修得だけではなく、地域のコミュニティと関われる魅力があると思います。「伝統=古典」という先入観にとらわれず、新しいテクノロジーの生み出す表現手法や価値観を元に更新し続けていくものとして、関わっていけたらおもしろいのではないでしょうか。

また、テクノロジーの進歩によって、これまでの職業が成り立たなくなる可能性が出てきています。これからの時代は、将来やりたいことを、〇〇デザイナーといった職業や、本やウェブといった分野から入るだけではなく、「何をどのように伝えたいか、そのためにはどういう伝え方をデザインすればいいか」という視点から考えることで、これまでになかった仕事を生み出すこともできると思います。

テクノロジーに抵抗感のある人にも学んでほしい

どんな学生にテクノロジー×(クロス)デザインを学んでほしいですか?

2種類のタイプの人を思いつきました。1つは日常的にデジタルコンテンツに親しみ、より一層楽しくしたりテクノロジーとデザインの関係を開拓したい人。もう1つはテクノロジーやコンピュータといった言葉に苦手意識のある人です。両者は両極ですが、 今の学生は生まれた時からスマートフォンがある世界で暮らし、無意識のうちに生活の中で様々なテクノロジーに触れています。テクノロジーへのやさしい関わり方のデザインや、どうやったらより多くの人がテクノロジーの恩恵を受けられるのか?といった観点は、今のテクノロジーに抵抗感がある人でないと発見できないデザインだと思います。

最後に、高校生にメッセージをお願いします。

何かに集中してひたむきになっている時は、視野が狭くなりがちです。一歩道を外れてみると、活路が見えたりします。時には息抜きをして信頼できる人と話したり、ご飯を食べたりしましょう。デザインは人に何かを与える仕事ですから、自分をおざなりにせず、生活と体を大事にしながら歩んでほしいです。

PROFILE

デザイン学科 助教
伊達 亘