
「地産地消モビリティ」の可能性。地域でつくり、地域で乗る
バギーのようなルックスのスクーター? 動くウッドデッキ? それは、プロダクトデザイン学科の齋藤和彦先生が研究・開発した車両「地産地消モビリティ」。地域の強みを活かし、地域社会で必要とされるものを作ろうとする姿勢が高く評価され、2020年度グッドデザイン賞を受賞しました。
2014年に特別研究テーマとして申請してから、基本構想、デザイン、設計、組立て、改良、そして、2018年の公道走行テストまで、新しいモビリティを作り上げる過程を齋藤先生に伺いました。
モノづくりで地域の課題を解決したい
「地産地消モビリティ」プロジェクトは、どういうきっかけでスタートしたのですか?
身の回りのものをデザインするプロダクトデザイン学科として、長岡の活性化にアプローチできることはないかと考えたのが原点です。地域の活性化には、人々が集まって交流し、つながりを持つことが不可欠。とすれば、季節や時間を問わず、自由な移動をサポートする手段が必要。では、その移動手段をつくろうという流れです。

幸い長岡には金属加工や部品製造で高い技術力を持つ企業が多いので、その技術力を活かして製造し、長岡で製造・販売・消費するというサイクルを構築すれば、産業も活性化するはず。そこで、地産地消型の小型車両開発プロジェクトに着手しました。
田んぼも街も雪道も走れる機能を
かわいいデザインが目を引きますね。コンセプトをおしえてください。
コンセプトは「気軽な農耕車」です。人口のおよそ1割が農業に関わる長岡の地域特性をふまえ、田畑への移動や収穫の補助を前提に、日常の買い物にも使え、積雪時にも走ることができるよう、機動性の高い農耕車として車体構成を考えました。
動力は、種類も多く入手しやすい電気モータに。サスペンションやタイヤは悪路に負けないタフな仕様に。購入や維持管理の経済的負担を抑えるため、カテゴリーは原付一種に。ニーズと将来の市販化をにらみながら、構造・仕様を一つ一つ定めていきました。
外観上の最も大きな特徴は、前後のウッドデッキです。積載量を増やし、積み下ろしがスムーズに行えるようにフラットにしたので、モノを載せていないときにはベンチとしても使えます。

また、ホームセンターで購入できる木材やビスを使っているので、ユーザーが補修でき、木目や色を変えるなどのカスタマイズも可能です。自分の使い勝手に合わせて乗り物づくりができるという楽しさを盛り込むことも、このプロジェクトで考慮した点です。
人も産業も元気にする
製造は「長岡で」にこだわったそうですね?
ええ。製造については、フレーム加工や部品製造は長岡市内の企業に依頼し、電気モータやモーターパーツ、ウッドデッキの木材などは汎用品を長岡市内で購入して、学生とともに組み立てました。製作・購入を合わせると、金額ベースで79%まで地産率を高めることができました。ですから、市販することができれば、産業の活性化にもつながります。

しかし、プロジェクトのゴールはまだまだです。性能面のブラッシュアップ、フィールド調査やそれに基づく改良、オプションパーツの開発などの研究をこれからも継続していきます。グッドデザイン賞エントリーは、この取り組みを広く告知し、市販化へ向けたパートナー探しへの一歩でもありました。ここで頂いた評価を糧として、「地産地消モビリティ」の研究開発を進めていきたいと思っています。
地産地消モビリティの動画をご覧いただけます
地産地消モビリティ誕生までの歩み
2014年12月(平成26年) | 特別研究テーマとして申請(学内) |
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2015年3月(平成27年) | 基本構想発表(えちご・ECO 技術同友会) 全体レイアウト・図面製作開始 技術アドバイザーとの打ち合わせ 部品製作企業との打ち合わせ |
2015年7月(平成27年) | 図面発行 部品製作手配 |
2015年10月(平成27年) | 部品納入 組み立て開始 市民オープンキャンパス展示 |
2015年11月(平成27年) | 実働のための組み立て 石破茂元地方創生担当大臣 来学時に展示 |
2016年1月(平成28年) | 組み立て完了 第一回走行テスト |
2016年3月(平成28年) | 「北陸地域の活性化」に関する研究助成事業 報告会(新潟市)にて報告 長岡造形大学紀要 第 14 号寄稿 |
2016年4月(平成28年) | 産学連携知的財産アドバイザー派遣事業(INPIT)に採択 |
2016年6月(平成28年) | 山間地・畑(私有地)にて走行テスト |
2016年7月(平成28年) | 「デザインへのみちすじ」展出品(新潟市) |
2016年9月(平成28年) | 新潟産学官連携フォーラム 学内展示 走行テスト・改修など随時進行 |
2017年2月(平成29年) | 2号機製作のための企業訪問 1号機のテスト・調査結果をもとに 2号機の基本構想着手、図面制作 |
2017年7月(平成29年) | えだまめフェスタ2017(長岡市)出展・アンケート調査 |
2017年9月(平成29年) | 2号機図面による手配 |
2018年2月(平成30年) | 試作部品納入・組み立て開始 |
2018年6月(平成30年) | NaDeC BASE にて公開組み立て作業(~7月) |
2018年7月(平成30年) | えだまめフェスタ 2018 出展・アンケート調査 |
2018年9月(平成30年) | 法規対応状況・実車確認、走行テスト・セッティング確認 |
2018年11月(平成30年) | 原動機付自転車標識交付(長岡市) |
2018年12月(平成30年) | 公道走行テスト開始(長岡市内) |
パンフレット
PROFILE
造形学部 プロダクトデザイン学科 教授(掲載時)
齋藤 和彦(さいとう かずひこ)