デザインの楽しさとは?これからのデザインは? NADCアワード2022グランプリ&準グランプリの二人によるスペシャル対談【後編】
卒業生へのエールを託したバッグとポスター
NADCアワード2022の受賞作品について、解説をお願いします。
五十嵐 私の方は医療系専門学校のパンフレットです。高校などに置くダイジェスト版と、LINE登録するともらえるプレミアム版の2種類。プレミアム版にはオンライン出願に必要な用紙が入っています。
吉川 紙や加工にもこだわってますね。
五十嵐 プレミアム版のケースとパンフレットの表紙は白箔押しです。「学校は学生の個性を際立たせる真っ白な場」という意味を込めています。オンライン出願の用紙は「重要なもの=切れてはいけない=不織布」を使用しています。
吉川 不織布は医療現場でよく使われる素材だしね。
五十嵐 そうですね。ダイジェスト版は表紙が8パターンあります。「人を大事にしたい」という学校のコンセプトに基づき、学生と先生、先輩と後輩といった「2者の対話」からイメージした温かみのある色を組み合わせています。
吉川先生の作品も、解説をお願いします。
吉川 卒業記念品として作ったトートバッグです。新型コロナで祝賀会ができない代わりに「何かを作ってくれませんか」と大みそかに学生から連絡をもらって。年末モードから一気に仕事モードになったのを覚えています(笑)。
物はトートバッグにすると決まって、長岡らしさをどう表現するか考えました。長岡には花火とかお酒とか色々ありますが、「長岡の道路は赤い」というのが学生の第一印象だったらしいんです。消雪パイプから出る水の赤サビの色。汚い印象の赤サビをきれいなものに変換したり、それを長岡らしさのテーマとするのは面白そうだと思いました。
バッグの底に印刷されている「There is no unmeltable snow(解けない雪などない)」は、社会に出る卒業生たちへの応援メッセージです。
大判のポスターもかっこいいです。
吉川 何度もロケハンして私がディレクションして学生に撮影してもらいました。審査会では「ポスターは必要なのか?」という意見もありました。でも私は、切り取ると絵画のように美しい長岡の赤い道路も、卒業生の記憶に留めてほしいと思いました。それにはやっぱり精度が重要。いかに最後、美しく定着するか。それを今まで勉強してきた学生に見せたいと考えました。作っていてすごく楽しかったですね。
五十嵐 審査会は立体物の出品が多くないので目を引きますよね。「先生、ついにプロダクトまで行ったんだな」と思いました。
コンセプトか?表現か?
五十嵐さんの「ダリ版画展」のフライヤーは、新潟ADC賞と日本タイポグラフィ年鑑2023審査委員賞も受賞しました。
五十嵐 日本タイポグラフィ年鑑は初めて出品しました。ダリといえば、代表作に描かれたゆがんだ時計が有名。その奇抜な発想を、輪郭をゆがませたフライヤーで表現しました。文字もダリの髭になっていたり、その髭もひっくり返っていたり。
チケットは赤、青、黄色の3色展開です。黄色はダリが最も好きな色で、2番目に好きなのが青だそうです。あと1色どうしようかなと悩んで、ダリが生まれたスペインの国旗にちなんで赤にしました。
デザインってそういう謎解きというか、込められた意味を推測するのが面白いですよね。
五十嵐 それは実は吉川先生の影響が大きいんです。先生が2019年にNADCの審査員をした時、「コンセプトを大事にしなさい」という趣旨の講評をしました。その話が響いた人、僕も含めて多かったと思います。
吉川 それは覚えています。当時、審査会の評価が「表現」に寄りすぎているのが気になっていたんです。意味があって作られたものが評価されにくく、形や色で評価される傾向になっていた。「見た目がいいだけでなく、どう意味を込めるか考えてほしい」という話はしましたね。デザイン思考という言葉も取り沙汰されていた時代でした。今はそれが定着し、コンセプトを大事にしながらも、表現でグッとくるものが再び評価される時代になったと感じます。
地方のデザイナーにチャンスのある時代
最後に、長岡造形大学の在校生や高校生にメッセージをお願いします。
吉川 僕はもうすぐ50歳。新潟のデザイナーにはどんどん僕を追い越してほしいです。地方でこれほど幅広い年代が切磋琢磨している地域は、ありそうでない。それを誇りに思いながら新潟のデザインを盛り上げてください。新潟は宣伝下手と言われますが、裏を返せばデザイナーにはチャンスがあるということ。クライアントとの距離の近さも地方の魅力です。地方のADCは、新潟以外にも札幌、岩手、長野、富山、金沢、広島、九州にあります。他の地方のADCも見て興味を持ってもらいたいですね。
五十嵐 僕がデザイナーになりたいと思った20年前と今では、全く違う社会です。「これだけできればいい」というのが通用しなくなってきました。広い領域に対応できる人が社会で求められます。そう考えると、吉川先生がプロダクトを作ったように、平面にこだわらずに視野を広げてほしいなと思います。
吉川 とはいえ、五十嵐くんがタイポグラフィに興味を持ったように、自分の強みや好きなものは大事だよね。自分の立ち位置があって、そこから広げていくのは重要。自分の芯のようなものができてくると、何にでもトライできるんじゃないでしょうか。
PROFILE
視覚デザイン学科 准教授
吉川賢一郎
卒業生/
株式会社アドハウス・パブリック アートディレクター
五十嵐祐太